予測不能の自然災害に備えるため、自治体が担う防災体制の強化は喫緊の課題です。近年の災害規模の拡大や頻発化に対し、紙ベースの情報伝達や従来型の避難誘導では限界に達しています。
そこで注目されるのが、自治体におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)です。中でも防災アプリの導入は、スマートフォンを通じて災害情報を効率的かつ迅速に共有し、住民の安全を高める効果が期待されています。ただし、アプリを活用するためには、高齢者や外国人住民へのIT支援、災害時における通信インフラの確保など、多方面からの整備が求められます。
本記事では、自治体の災害対策をDX化するうえで注目される防災アプリの導入事例について、具体的な取り組みやメリット・課題を解説します。
自治体の災害対策とDX化の必要性
日本における災害リスクの高まり
日本は地震、台風、大雨など、世界的にも災害リスクが高い国として知られています。近年は地球温暖化の影響も指摘されており、豪雨や台風が大型化・頻発化している傾向があります。こうした状況では、自治体が対応すべき災害の規模や種類も多様化・複雑化しており、従来の防災対策だけでは住民の安全を守りきれないリスクが高まっています。自治体が迅速かつ正確な災害対応を実施するためには、これまで以上に効率的な情報共有と管理体制の整備が求められています。
既存の防災対策における課題
既存の防災対策には、地域の特性を生かした避難所運営や災害訓練など、長年培われてきた実績があります。一方で、大規模災害や複合災害に直面すると、情報伝達が遅れたり、避難所の混雑状況がリアルタイムで把握できなかったりするケースが指摘されています。
特に、自治体が持つ各種データや地図情報を住民と共有する仕組みが十分に整っていないため、災害時には紙ベースの配布資料や口頭連絡に頼る場面が少なくありません。加えて、高齢化の進行や人口減少といった社会問題も影響しており、災害時に迅速な支援が必要な高齢者・要支援者への対応が十分に行き届かない恐れもあります。こうした課題を解決するには、自治体が持つデータと技術を連携させ、より速やかに住民へ情報を届ける仕組みが不可欠です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)による解決策
DXは、単なるITツール導入にとどまらず、組織やサービスの構造そのものを変革することを意味します。自治体の災害対策にDXを取り入れることで、従来の紙ベースや局所的な情報連携をデジタル化し、平時から住民と双方向のコミュニケーションを築くことが可能になります。具体的には、避難所の開設状況を地図上にリアルタイム表示したり、災害発生時の住民からの問い合わせをチャットボットで受け付けたりするなど、ITの力を活用した多彩なアプローチが考えられます。
防災アプリとは?その役割と主要機能
防災関連のデータを一元管理すれば、自治体内部や国との間で迅速に情報を共有し、危険区域の把握や支援物資の配布計画も精度を高めることができます。
防災アプリの概要
防災アプリとは、災害の備えや発生時の対策をサポートするために開発されたスマートフォン向けのアプリケーションです。自治体が独自に開発するケースもあれば、民間企業と連携してサービスを展開する場合もあり、住民は無料または低コストで利用できることが多いです。
アプリでは、災害情報をプッシュ通知する機能はもちろん、避難所の場所やハザードマップ、緊急時の連絡先など、必要な情報を一元的に閲覧できる仕組みを提供します。さらに、位置情報を活用することで、ユーザーが現在地周辺の危険度や避難ルートを手早く確認できます。これらの機能は平時から訓練や備蓄の確認などにも活用できるため、住民の防災意識を高める一助にもなっています。
防災アプリの主要機能
防災アプリに搭載されている機能のうち、代表的なものとしては、まず災害情報のプッシュ通知機能が挙げられます。気象庁の警報や自治体が発表する避難情報などをリアルタイムで受け取れるため、住民は迅速に行動に移せます。
次に、マップ機能も重要です。避難所の場所や混雑状況、通行止めの道路などを地図上に可視化することで、利用者は安全なルート選択がしやすくなります。さらに、安否確認やチャット機能を備えるアプリもあり、地域コミュニティ同士の情報共有や被災者の捜索をスピーディーに行える点が注目されています。
加えて、備蓄品の管理や災害対策マニュアルをチェックリスト化する機能など、平時から使い勝手を感じられるコンテンツも充実しつつあります。
防災アプリ導入のメリットと課題
防災アプリ導入のメリット
防災アプリを導入することで、情報の伝達が迅速化し、正確性が向上します。自治体が発信する公式情報や気象警報などを一括で配信できるため、住民は適切なタイミングで避難行動をとることができます。また、地図機能の充実によって、自分のいる場所の災害リスクをすぐに確認でき、避難所の混雑度も可視化されるため、混乱の回避や安全確保に役立ちます。
加えて、アプリを介して双方向のコミュニケーションが実現するため、災害時の問い合わせや支援要請を素早く拾い上げることができます。さらに、平時の段階でも備蓄リスト管理や防災訓練のお知らせなどが行えるため、住民の防災リテラシーを日常的に高める効果も期待できます。
防災アプリ導入の課題
一方で、防災アプリの導入にはいくつかの課題も存在します。まず、アプリを利用するにあたってスマートフォンやタブレットの操作に慣れていない高齢者への対応が必須となります。自治体がITリテラシー向上の講習を開催したり、地域のボランティアが利用方法を支援したりする取り組みが必要です。
次に、通信インフラの脆弱性も考慮すべきです。災害時には回線が混雑し、アプリからの情報取得が遅れる可能性があるため、複数の連絡手段を併用するなどの対策を検討する必要があります。さらに、個人情報や位置情報を扱う場合のセキュリティ面もクリアしなければなりません。導入コストや運用体制についても、地域ごとに状況が異なるため、行政内の合意形成や予算確保がスムーズに行われるよう、事前調整と十分な説明が求められます。
自治体における防災アプリの導入事例
福島県会津若松市|デジタル防災アプリ
福島県会津若松市では、2023年3月よりデジタル防災サービスの提供を開始しました。デジタル防災サービスとは、防災用品の備えや発災時の安否確認、避難ルート表示など、平時から発災時までの市民の防災行動をサポートするアプリです。
このアプリでは、年齢や性別などの情報から個人に合わせて「非常用持ち出し品」と「備蓄品」を設定できます。防災マップでは、避難先の場所や危険箇所、ハザードマップを地図上で確認することができ、洪水・土砂災害・津波の3種類のマップを重ねることで複合災害のリスクを確認することが可能です。
発災時には地震や気象情報などの防災情報を通知し、地図上で避難所・避難場所までのルートを確認できます。避難所の開設状況や満空情報を確認することも可能です。安否を回答すると家族に安否情報と位置情報が共有されます。
参考:会津若松市「位置情報を活用した「デジタル防災」サービス提供開始」
東京都目黒区|防災地図アプリ
目黒区では、スマートフォン・タブレット端末などで利用できる防災地図アプリを配信しています。アプリをダウンロードすると、目黒区の防災マップや各種ハザードマップの閲覧、避難所の開設状況などの確認をすることができます。また、災害時には避難を知らせる情報などを発信します。
アプリにはGPSによる現在地表示機能があり、区内にある避難所や土のう設置場所、公共施設に設置されているAEDなどを検索し、経路の案内を表示することができます。また、雨雲レーダーや台風の進路、各種ハザードマップを地図に重ね合わせて確認することができます。さらに、避難所の開設状況を確認することもできます。
災害時には、プッシュ通知で避難情報などを発信します。また、災害時の心得や安否確認方法などの役立つ情報も閲覧できます。あらかじめダウンロードしておくことで、インターネット通信ができない状態でも、地図情報を表示したり、GPS機能を使って避難所への方向を確認したりすることができます。
参考:目黒区「スマートフォンなどで利用できる防災地図アプリ」
鳥取県|あんしんトリピーなび
鳥取県では、無料の総合防災アプリ「あんしんトリピーなび」を提供しています。県内の危機管理情報などをアプリでまとめて確認することができ、多言語(英語・中国語(繁体字)・中国語(簡体字)・韓国語・ロシア語・ベトナム語・フィリピン語・インドネシア語・タイ語)翻訳や音声読み上げにも対応しています。
本サービスでは、多様な防災情報をプッシュ通知で確認でき、各市町村のハザードマップ、気象情報、国・市町村・他県のホームページリンク一覧を参照することができます。また、メールで発信する緊急情報(避難情報、警報等気象情報、地震、交通情報、熱中症等生活安全情報等)、鳥取県からのお知らせ項目は、任意のエリアとジャンルから自由に選択可能です。発災時には、マップで現在地から最寄りの避難所までの経路、河川・道路の状況をライブ画像で確認できます。
参考:鳥取県「「あんしんトリピーなび」の特徴」
今後の展望
AI・ビッグデータを活用した被害予測
今後は、防災アプリと組み合わせる形でAIやビッグデータを用いた被害予測が普及していくと考えられます。大規模な豪雨や地震が発生した際に、過去の災害データや地形データとリアルタイムの気象情報をAIが解析することで、局地的な被害の規模を早期に推定できるようになります。これによって、自治体は重点的に支援が必要なエリアを特定し、より効率的に救助活動や物資の配備を行えます。
さらに、長期的には市民1人ひとりがアプリを通じて得られる情報が高度化し、住民自らが状況を先回りして判断することが期待されます。AIの活用は、自治体や国が抱える人員・財政面の制約を補完し、災害対応の迅速化・的確化を促進するために重要です。
SNSやチャットボットとの連携
SNSやチャットボットとの連携もこれからの防災アプリに求められる大きな機能です。災害時にはX(旧Twitter)やFacebookなどで住民が情報を交換し合う光景が珍しくありませんが、その情報を防災アプリ内で統合・整理できれば、より正確な被害状況把握につながります。
また、チャットボット機能を活用することで、深夜や休日でも住民からの問い合わせや支援要請を24時間受け付ける仕組みが構築可能です。さらに、音声入力や多言語対応といった機能も拡充すれば、外国人観光客や在住者に対する災害情報提供にも役立ちます。多様なコミュニケーション手段を活用することで、誰ひとりとして情報弱者を生まない防災体制づくりが期待できます。
国や自治体間のデータ共有
災害は市や県の境界を越えて発生することが多く、広域的な情報共有が欠かせません。国や他自治体とデータを連携し、防災アプリの情報基盤を共通化する取り組みが進めば、広域避難の誘導や広範囲にわたる被災状況の把握がより容易になります。
このような動きは、デジタル庁が進める「防災・減災のDX施策」とも連動しており、複数の自治体で同様の仕組みが普及すれば、大規模災害時にも途切れない情報連携が期待されます。災害対策におけるDXは一自治体だけでは完結しないからこそ、広域連携が今後の防災強化に重要です。
自治体のDX課題の解決には予約システムRESERVA
自治体や行政がかんたんに導入できるDX施策として、おすすめなのが予約システムの導入です。予約システムの機能は、行政手続きの予約管理にとどまらず、決済から住民情報の管理、さらに職員やリソースの調整にいたるまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、自治体や行政の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、住民にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
現在多数の予約システムがありますが、自治体や行政が効率的にDXを促進するためには、住民のデータセキュリティ対策が厳重なRESERVAをおすすめします。RESERVAは、30万社が導入、500以上の政府機関・自治体も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、自治体の業務プロセスがより効率的に進められます。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる自治体にもおすすめです。
さらにRESERVAは、ISMS認証(ISO 27001)、ISMSクラウドセキュリティ認証(ISO 27017)を取得しており、不正アクセス対策やデータの保護・暗号化の実施もされているため、安全にデータを管理することができます。ブロックチェーンの活用とともにRESERVAを導入することで、一層セキュリティを強化することが可能です。
まとめ
自治体の災害対策においてDXの導入は不可欠な要素となっています。防災アプリの導入によって、災害情報の提供スピードが上がり、避難所の混雑状況も可視化されるようになります。一方で、高齢者へのIT支援や通信インフラの強化、セキュリティ対策など、アプリの普及を支える環境整備はまだまだ道半ばです。今後はAIやビッグデータの活用、SNSやチャットボットとの連携、さらには自治体間・国とのデータ共有を通じて、より強固で柔軟な防災体制を構築していくことが期待されます。
また、防災アプリの活用とあわせて、予約システムを導入することで、自治体DXを効果的に推進できることも示しました。DXを推進するにあたって課題を抱えている自治体の職員は、ぜひ本記事を参考にしてください。
RESERVA lgでは、今後も自治体DXに関する学び、挑戦を取り上げていきます。