東京都では、2021年4月1日に「東京デジタルファースト条例」が施行されました。この条例では、都民がいつでもどこでも行政手続きをオンラインで完結できる環境構築を目指すことが掲げられています。このうち第四条では情報通信技術を活用した行政の推進計画の作成が規定されており、都は着実かつ計画的にデジタル化を進め、行政サービスの更なるQOS(クオリティ・オブ・サービス)向上のため、「東京デジタルファースト推進計画」を策定しました。
このような状況のなか、2021年10月、KDDI株式会社をはじめとした企業が、東京都の「区市町村における行政手続デジタル化支援業務委託」を受託し、行政サービスの質向上を支援する動きが見られます。この事業は、ICTや企業のアセットを活用し、住民に身近な区市町村窓口での手続きを効率化することで、利用者の利便性向上を目指します。また本事業を通して、業務プロセスの抜本的な見直しを行い、自治体職員自身が、デジタルツールの検討・導入・評価を行う方法や手順を身につけることも目的としています。(参照:KDDI「東京都 区市町村における行政手続デジタル化支援業務委託」を2021年10月6日に受託)。
また、東京都では、区市町村CIO(情報統括責任者)フォーラムの職員による取り組みがnoteで紹介されています。
東京都・区市町村CIOフォーラム
「区市町村行政手続きデジタル化モデル事業のご紹介①」
本記事では、行政手続きのオンライン化を進める東京都の政策と、企業による自治体サービスの業務効率化を推進する取り組み、およびデジタル化支援事業のモデルとなった自治体の事例について紹介します。
東京都の行政手続きデジタル化に関する政策
「東京デジタルファースト条例」とは
2021年4月1日に施行された「東京デジタルファースト条例」は、利用件数の多い行政手続きから重点的にオンライン化に取りかかり、個別手続に加えて利用者中心のデジタル化の推進や、モバイルを活用したサービス提供など、質の高い行政サービスの実現を目的としています。
また、デジタル機器に不慣れな住民への支援も行うことで、利用者にかかる負担を減らし、誰もがデジタル化の恩恵を受けられる仕組みづくりを目指します。
「東京デジタルファースト推進計画」の内容
東京デジタルファースト条例の第四条にもとづき、都は、直ちにデジタル化が困難な手続についても着実かつ計画的にデジタル化を進め、行政サービスの更なるQOS(クオリティ・オブ・サービス)向上のため、「東京デジタルファースト推進計画」を策定しました。
東京都の行政手続きのオンライン化進捗状況はダッシュボード上で公表されています。都では、行政手続きをオンライン化した業務の割合を、5%(2020年9月末)から70%(2024年3月末)まで高めることを掲げています。
区市町村における行政手続デジタル化支援事業
KDDI株式会社、コニカミノルタ株式会社、株式会社チェンジ、株式会社ディジタルグロースアカデミアの4企業は2021年10月6日から2022年3月31日にかけて「区市町村における行政手続デジタル化支援業務」を受託しました(参照:KDDI「東京都 区市町村における行政手続デジタル化支援業務委託」を2021年10月6日に受託)。下記ではその内容について説明します。
企業のノウハウによる業務改革
KDDIでは、自治体計画の策定支援などを行ってきた経験や他企業との共創ノウハウを活かし、自治体のデジタル化支援を行う行政向けコンサルチームを組織し、本事業に携わっています(参照:KDDI「事例紹介: 自治体のデジタル化で、行政窓口の手続きをもっと便利に! ~5つのモデル事業を通して自治体のBPR推進を図る「東京都 区市町村における行政手続等デジタル化モデル事業」~」)。また、今回受託した他企業においても、ICT技術などを活用し、保育所や施設予約などの都民に身近な行政手続き窓口を効率化し、利便性を向上します。このように、企業で蓄積されたノウハウを行政手続きに活かすことで、よりスピーディーに窓口のデジタル化を進めることができます。
さらに企業側は、現在の業務プロセスを詳細に調査・分解し、問題点を徹底的に分析する「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」(BPR)という手法を取り入れ、自治体における業務フローを抜本的に見直し、組織や業務をデザインしなおすことを目指します。このような企業ならではの視点を自治体に取り入れることで、人事異動による職員の入れ替わりの多い自治体の業務改革を実現します。
自治体職員のスキルアップ
本事業ではBPRの手法を活かし、企業が自治体に対して以下の3点を提示します。
- 業務改善のフレームワークなどを用い、区市町村職員と共に効果の高い改善策を検討
- あるべき姿から逆算した、実現可能なステップの作成支援
- 他自治体の改善事例を検索できる支援ツールの提供を通じ、自律的なDX推進をサポート
このように企業の支援を受けながらBPRを実践すれば、今まで3課で担当していた業務を1つの課で請け負うことで業務がスリム化できることに気づけるなど、業務の見極めがよりスムーズにできるようになり、自治体職員としてのスキルアップが見込めます。
また、BPRを検討する際、職員同士が話し合って意見を出し合うことでも業務フローが改善されることがあります。その結果、異動の多い職場であってもコミュニケーションをとる空気感が作られることが期待できます。
行政手続きデジタル化支援事業のモデル事例
ここではデジタル化支援事業のモデルとなった4自治体の事例を取り上げ、本事業によってオンライン化が可能となった業務について紹介します。
江戸川区
江戸川区の児童相談所では、職務経験を有する専門職や保健師が相談に乗り、対応虐待の早期発見、対応にあたっています。しかしスタッフ間での情報共有や知識の統一が図れないことが課題でした。
そこで「通話音声分析・モニタリングシステム」を試験的に導入し、通話内容から正確な情報を相談者に案内するとともに、緊急時には即座に組織的な対応へ移行することができるようになりました。さらに通話終了後は自動で通話内容の要約が作成されるため、書類作成などの業務が効率化され、児童や保護者への対応に注力することが可能です。
葛飾区
葛飾区では、妊娠・出産・子育て支援事業として、妊娠中の区民を対象に保健師や助産師などが面談を行う「ゆりかご葛飾」を実施し、出産や子育てに関するさまざまな相談ができます。
相談には面接予約フォームを作成し、予約業務の効率化を実現しました。予約者は希望する日時や必要な情報、相談内容をオンライン上で選択、記入できるようになっています。電話予約からオンライン予約に切り替えたことで、予約者側の心理的負担の軽減が期待できます。
あきる野市
あきる野市では、施設数や手続きフローの多い公共施設の予約をデジタル化しました。これまでは施設予約状況を把握することに時間を要しており、さらに利用登録者は手続き、支払いのために市役所や金融機関に行く必要があり、予約完了までのフローが煩雑でした。
そこで施設予約をオンライン化し、施設利用料金を電子決済することで、予約状況を一括管理できるようになりました。利用登録者側も支払いのために金融機関に行く手間が省け、業務フローが改善されています。
さらに、あきる野市では施設をスマートロック化し、施設の開錠と施錠もオンライン化を実現しています。
小金井市
小金井市では、子育て支援、介護関連の書類、マイナンバー発行などの各種書類の電子申請が可能です。これまで窓口や電話で行っていた申請・発行の問い合わせ業務を効率化するため、紙ベースの受付票を電子化しました。
申請に関わる書類をオンライン化することで、市民が窓口の受付可能時間を気にすることなく書類申請ができるようになります。また、小金井市のホームページでは手続きごとに申請手順が紹介されているため、よりスムーズに予約まで到達できます。
自治体業務のあらゆる用途に対応できる予約管理システム「RESERVA」
ここまで見てきたように、自治体サービスには書類手続き、施設予約、面談、申請など、さまざまな業務があります。特に区役所や市役所は、住民の生活全般に直結する窓口だからこそ、業務の正確化、効率化が求められます。
自治体業務の効率化を幅広い範囲で実現するためにまず挙げられるのが、SaaSシステムの導入です。例えば、SaaS型予約管理システムして国内最大級の登録事業者数26万社を誇る「RESERVA」の場合、書類申請、施設・面談・セミナーの受付など、予約が発生するすべての業態において効率よく手続きを進めることができます。
また近年は、人口20万人を超える規模の自治体のほか、人口5万人以下の小規模な市町村でも導入実績があり、 官民連携の良き実例としても挙げられています。システム導入はコストや管理費が高いというイメージを持たれることが多いですが、RESERVAなら安価で、誰でもかんたんに利用できるシステムとして好評を得ています。
RESERVAの導入実績は、以下の記事からご覧ください。
「官公庁・地方自治体の導入実績」
まとめ
今回は、企業による東京都の区市町村行政手続きデジタル化支援に関する受託事業を取り上げました。自治体業務の見直しやオンライン化への注目が高まる中、企業の視点が自治体に入ることで、業務フローの改革が進みます。さらにBPRという新たな手法は職員の意識改善や職場の空気づくりにも活かせます。
業務フローを見直す際の課題のひとつとなるのが、多様な「予約業務」の存在です。行政サービスのあらゆる予約管理をシステム化するだけでも、業務効率化は一気に加速するでしょう。