現代社会におけるデジタル技術の発展は、私たちの日常生活に多大な影響を与えており、自治体もその例外ではありません。特に、地域通貨の導入やキャッシュレス決済の普及は、住民の利便性を向上させ、地域経済を活性化させる重要な取り組みとなっています。経済産業省の「2023年のキャッシュレス決済比率」調査によれば、2023年の日本におけるキャッシュレス決済比率は39.3%に達し、前年の36.0%から増加しています。このようなデジタル決済の普及は、住民の利便性向上や地域経済の活性化に寄与します。
このようなデジタル化の波を受け、各地域がニーズに合わせた独自のデジタル地域通貨の導入や窓口の電子決済対応を促進しています。この取り組みは、住民の利便性を向上させるだけでなく、観光産業の発展や地域ブランドの強化など、多くのメリットを生み出しています。
本記事では、自治体におけるデジタル決済の現状とその背景について分析し、自治体が直面する課題やデジタル決済の必要性を具体的な自治体の事例と共に探ります。
日本における自治体のデジタル決済の現状と背景
自治体が直面する課題
自治体は、人口減少に伴う過疎化の進行に直面しています。特に若年層の都市部流出により高齢化が進行し、地域の担い不足が顕著に表れています。これにより、地域経済の停滞が続き、地元商店の閉鎖や雇用の減少が進行しているため、地域経済が悪循環に陥っています。さらに、観光収入の低迷も課題として挙げられます。地域外からの訪問者や消費が減少することで、自治体は財政的にも厳しい立場です。
デジタル地域通貨や電子決済の必要性
デジタル地域通貨や電子決済は、地域住民や訪問者の利便性を高め、地域経済の活性化に大きな貢献が期待されます。特にデジタル地域通貨は、利用データをもとにユーザーの消費動向を把握できるため、効果的な地域振興策を打ち出す手助けになります。また、デジタル地域通貨や電子決済の導入をしている自治体では、災害時の資金移動や生活支援にも柔軟に対応でき、迅速な支援が可能です。さらに、地方銀行や地元商店と連携することで、地域資源の有効活用が進み、地域経済の持続可能性が高まります。これにより、地域住民の暮らしを支えるだけでなく、外部からの投資や訪問者を呼び込みやすくなり、地域社会の活力向上が期待されます。
自治体がデジタル決済を導入する目的
地域経済の活性化とキャッシュレス化
自治体がデジタル決済を導入する大きな目的の一つは、地域経済の活性化です。地域限定で使えるデジタル通貨やキャッシュレス決済は、住民の地域利用や観光客の消費を促進し、経済循環を高める効果があります。
特に観光産業は、デジタル決済の活性化が見込まれる分野です。例えば、訪問者にデジタル地域通貨のユーザーとして登録をしてもらいます。ユーザーがアプリを経由して決済をすることで、行動データを獲得し、データを利用して効果的なマーケティングを図ることが可能です。また、初回登録に特典を設けたり、導入店舗へのクーポン発行が実現できれば、ユーザーの利用につながり、地域経済の発展が期待できます。デジタル地域通貨の活用で、街のブランド性を高める効率的な施策を考えるデータを集められます。
行政サービスの効率化と住民利便性向上
自治体の公共料金や窓口支払いのキャッシュレス化は、業務効率化に寄与します。公益財団法人東京市町村自治調査会の「公金収納のキャッシュレス化推進について~戸籍住民窓口手数料から考える~」によると、自治体への調査でキャッシュレス決済導入前に課題として挙げられていた「会計トラブル(お金の数え間違い、置き忘れ・渡し忘れ等)がある」、「レジ締め作業の負担が大きい」、「釣銭準備の負担が大きい」といった課題が、地域通貨を含めた電子決済の導入により、課題を解決できたとのことでした。さらに、住民もアプリやQRコードを利用することでかんたんに支払いが完了し、来庁の手間が削減されるなど利便性が向上します。こうしたデジタル決済の導入により、自治体と住民の双方の負担軽減が進み、行政サービスの質が向上します。
具体的な支払いDXの活用方法
ここまで、自治体が電子地域通貨やキャッシュレス決済を行う背景や目的について考えてきましたが、ここからは具体的にどのような場面で活用されているのかを説明します。
公共料金支払いの利便性向上
現在、公共料金の支払いは、銀行振り込みや引き落とし以外にも、クレジットカードや電子決済アプリPayPay、LINE Payなどで支払うことが可能です。公共料金を毎月振り込む必要や引き落としがないため、電気やガスが止まるといったリスクがかなり削減されます。
特にクレジットカードは、支払いに申し込みが必要ですが、毎月必ずポイントが貯まるためお得に支払うことができます。しかし、公共料金の種類によっては対応不可の場合もあるので、注意が必要です。
PayPayやLINE Payといったスマホ決済の場合、振込用紙に印刷されたバーコードをスマホアプリで読み取って支払います。口座引き落としやクレジットカード払いのような事前申し込みが不要で、自宅でかんたんに支払えます。
自治体窓口支払いを削減
自治体への電子決済の導入は、自治体が所有する施設を利用する場合にも窓口の受付時間の削減につながります。特に、施設利用などにおいて、予約をオンラインシステムで済ませたのち、決済まで完了することで、現地で受付する手間を省けます。コワーキングスペースの運営を有料で行っている自治体の場合は、予約と同時に決済も可能なシステムが導入されていると、利便性が上がり利用者の増加も見込まれます。
地域店舗に限定した電子決済で店舗の販売促進
新型コロナウイルス蔓延以降、多くの自治体で始まった地域通貨の取り組みは、行政側にとって地域経済の活性化や資金の地域内循環を促進する手段となります。市民が地域通貨を使うことで、地元の店舗の利用が増え、商業の活発化が実現可能です。一方、市民側のメリットとして、自治体の発行するクーポンや特典が受けられるなどの経済的利点があり、地域への貢献意識も高まります。
自治体によるデジタル決済の取り組み
デジタル庁
デジタル庁は、日本全国の自治体におけるキャッシュレス決済の普及・促進を支援するため、さまざまな取り組みを進めています。キャッシュレス決済の導入は、住民の利便性向上や行政業務の効率化に寄与する一方、従来の支払い方法に比べて手数料が発生するため、自治体の負担が課題となっていました。この点に対応すべく、デジタル庁では手数料補助制度などの導入を進めています。
具体的には、自治体がキャッシュレス決済を導入する際の初期導入費や運用コストを軽減する補助金を提供し、自治体が抱える負担を削減する支援を行っています。この補助金制度により、現金管理のコスト削減や会計処理の効率化が期待され、住民もかんたんで便利な手続きで公共サービスを利用できる環境が整いつつあります。
キャッシュレス納付が可能な行政手続の例は以下のとおりです。
- 戸籍関係
・戸籍謄抄本
・戸籍の附票(除附票)
・改製原戸籍謄抄本
・除籍謄抄本
・身分証明書
・独身証明書 - 住民票関係
・住民票の写し
・住民票記載事項証明書 - 税関係
・所得証明書
・課税証明書
・納税証明書
・滞納がないことの証明書
・固定資産評価証明書 - その他
・罹災証明書
・防火管理者資格証(再交付)
・情報公開請求
キャッシュレス納付において、以下の決済方法を利用することができます。
- 二次元コード決済
・PayPay
・d払い
・auPAY - クレジットカード
・VISA
・Mastercard
・JCB
・American Express
・Diners Club
参考:デジタル庁「国に納付する手数料等のキャッシュレス化」
参考:デジタル庁「自治体のオンライン手続における手数料の決済手段としてクレジットカードを追加しました」
参考:デジタル庁公式Note「デジタル庁設立から1年。16の施策の活動成果と進捗(2/3)」
東京都|もっと!暮らしを応援TOKYO元気キャンペーン
東京都では、キャンペーン期間中に、都内の対象店舗において、対象のQRコード決済を行うと、後日、決済額の最大10%(上限3,000円相当)のポイントを還元予定の「もっと!暮らしを応援TOKYO元気キャンペーン」を行っています。対象の決済方法は、au Pay、PayPay、d払い、楽天Payの4つで、キャンペーン期間中に都内の対象店舗において対象のQRコード決済を行った利用者であれば、都内在住者(都民)でなくても還元対象となります。
このキャンペーンは、消費を促進し、地域経済の活性化に寄与するため、利用者は自身の消費活動を通じて東京都に貢献できます。
参考:東京都「もっと!暮らしを応援TOKYO元気キャンペーン」
京都府丹後地域|Tango Pay
Tango Pay(タンゴペイ)とは、京都府の丹後エリアを中心とした加盟店で使用できる、丹後地域初のデジタル地域通貨です。キャッシュレス機能だけでなく、丹後地域の観光企画やイベント、緊急時の情報発信など役立つ情報も獲得できます。
丹後地方は、天橋立などの名所がある観光地ですが、京都市街から離れているため観光客の減少が課題でした。 しかし、来訪者が丹後地方でどのアクティビティやレストラン、お土産ショップを利用しているかといった具体的な行動データを把握できないため、効果的なマーケティング施策が立てづらいという問題もありました。そこで、観光客の動線を明らかにする取り組みとしてTango Payという地域通貨の導入が実現しました。地域通貨導入により、利用登録した顧客がどのような消費活動をしているのかがわかり、裏付けのある有効的な施策を打ち出すことが可能になります。
参考:Tango Pay
参考:日経ビジネス「新しい観光地域通貨『Tango Pay』が始動」
参考:NTTデータ「丹後王国ブルワリー、京都銀行、NTTデータ等が連携京都・丹後地域の地域通貨アプリ『Tango Pay』12月提供開始」
東京都世田谷区|せたがやPay
せたがやPayは、東京都世田谷区の支援のもと世田谷区商店街振興組合連合会が2021年2月に提供開始した、世田谷区を対象とするデジタル地域通貨です。2024年1月時点で、累計利用額は昨年末に200億円に達し、登録店舗は5000店まで増えています。
現在、世田谷区では、国民健康保険に加入する40歳から74歳の方を対象に、健康づくりを促進する「健康ポイント事業」を実施しています。この事業では、ウォーキングや特定健診の受診などの健康活動を行うことでポイントを獲得でき、一定のポイントを達成すると抽選でせたがやPayアプリで利用可能なポイントが当たります。このように、地域通貨を自治体が支援することで、世田谷区が提供する行政ポイント(区が行う対象事業に参加するなど、行政サービスを利用した方に対して付与されるポイント)の受け皿としての活用も可能です。この健康ポイント事業は、地域に住んでいる人の健康増進と地域の経済サイクルを生む、一石二鳥なキャンペーンです。
参考:せたがやPay
参考:世田谷区「せたがやPay」
参考:世田谷区「令和6年度世田谷区国民健康保険健康ポイント事業を実施します」
DX化には予約システムRESERVA
DXを推進するにあたって、おすすめなのが予約システムの導入です。予約システムの機能は、予約管理にとどまらず、決済から顧客管理、さらに集客に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、利用者にとっても一元的で使いやすい環境が提供されます。
現在多数の予約システムがありますが、自治体が効率的にDXを促進するためには、実際に導入事例もあるRESERVAを推奨します。RESERVAは、30万社が導入、500以上の政府機関・自治体も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、市役所の業務プロセスがより効率的に進められます。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる市役所にもおすすめです。
RESERVAには独自のオンライン決済システム「レゼペイ」が搭載されており、Visa、MasterCard、JCB、American Express、Diners Clubの5つのブランドのカードが利用可能です。初期費用、月額固定費、トランザクション費(実店舗・ECサイトから銀行などに売上データを転送する際の通信費)などがかからないため、気軽に始められます。
まとめ
電子地域通貨やキャッシュレス決済の導入は、自治体が住民の生活をより便利にし、地域経済の活性化を促すための重要な一歩です。行政サービスの効率化や観光産業の支援といった多角的な効果により、デジタル決済は自治体DX化の中心的役割を担っています。各地の事例からも、デジタル技術の導入が実際にどのように地域経済や住民生活を向上させるかが示されています。今後も自治体と住民が協力し、デジタル技術を活用して持続可能な地域社会を築いていくことが期待されます。