ライドシェアサービスは、タクシーが少ない時間帯や交通の便が悪い自治体において、駅やバスなどの定時定路線とは異なり、自宅から目的地まで直接移動できる新たな交通手段の選択肢として注目されています。特に、ドライバーにタクシーのような二種免許が必要ないこともあり、農村部での新たな交通手段としての活用が期待できます。
このようなライドシェアの取り組みは自治体に多くのメリットをもたらす一方で、まだ課題が残る分野でもあります。この記事では、注目が高まっている自治体ライドシェアのメリットやシェアリングの予約を行っている事例、さらにはそこから見えてきた課題について紹介します。
ライドシェアサービスとは?
ライドシェアサービスとは、タクシーの営業許可を持っていない一般のドライバーによって、顧客を有償で送迎するソーシャルサービスです。中国やタイなどアジア各国でも拡大しており、Uber Japan株式会社の「諸外国におけるライドシェア法制と安全確保への取り組み」によると、2017年時点での調査では、ライドシェアの市場規模は当時の360億ドルから、2030年までに2,850億ドルに成長すると見込まれています。これは現在のタクシー市場規模の約3倍の数字で、ユーザーの割合は全人口の13%に迫るとの試算も出されています。
しかし、日本では自家用車による営利目的の運行は、道路運送法第4条の、「一般旅客自動車運送事業者でない者が、報酬を受けて自動車を使用して旅客を運送してはならない」により違反であるため、一般のドライバーによる有償でのライドシェアサービスは提供ができませんでした。しかし、近年の社会情勢の変化に伴って、「自治体ライドシェア」と「日本型ライドシェア」2タイプのライドシェアが条件付きで許可されています。
自治体ライドシェアと日本型ライドシェアの特徴
ライドシェアサービスは、その地域やニーズによってさまざまな形態が存在します。自治体が主導するライドシェアと日本全体で一般的に行われているライドシェアには、それぞれの特性や利点、課題があります。ここでは、自治体ライドシェアと日本型ライドシェアの共通点と相違点を比較していきます。
【共通点】
サービス内容:乗客がスマートフォンアプリやウェブサイト(自治体の場合は運営事務局への電話)を通じて車を呼び、目的地まで移動するサービスを提供する。
利用者のメリット:交通手段が限られた地域・時間帯において、利便性が高まる。
技術利用:GPSやスマートフォンアプリを利用して、リアルタイムで車両の位置情報や配車情報を提供する。
環境への配慮:車の共同利用を促進し、交通量の削減や渋滞緩和、二酸化炭素排出量の削減を目指している。
【相違点】
自治体ライドシェア | 日本型ライドシェア | |
運営主体 | 地方自治体や地方公共団体 | 民間企業や個人 |
主な目的 | 地域住民の交通手段の確保や地域活性化 | 利便性の向上やコスト削減 |
許可 | 地方自治体が許可を出し、特定の条件下で運行 | 道路運送法により厳しく規制 |
範囲 | 自治体内など限定的 | 市区町村をまたぎ、広範囲での利用が可能 |
参考:新・公民連携最前線「動き始めた『日本型ライドシェア』と『自治体ライドシェア』」
参考:Uber Japan株式会社「諸外国におけるライドシェア法制と安全確保への取り組み」
自治体がライドシェアを進めるメリット
現在、日本各地の自治体がライドシェアを進めています。ライドシェアを自治体が推進することによって、自治体には主に3つのメリットがもたらされます。
渋滞緩和と環境保護
ライドシェアを利用することで、個々の車の利用が減少し、交通渋滞を緩和します。特に通勤時間帯において効果的です。また、公共交通機関が不足している地域や運行が少ない時間帯において、貴重な移動手段としてライドシェアが機能し、住民の移動の選択肢が増え、利便性が向上します。車の利用数が減少することで、二酸化炭素の排出量が減少し、環境保護も実現します。
移動難民の支援
自家用車を持っていない高齢者や障がい者にとって、ライドシェアは重要な移動手段です。また、過疎地域で、バスやタクシーの運行が限られている場合、買い物や通院、通学など、日常生活に欠かせない移動が困難になることが多くあります。その際に、住民が自宅から目的地までの移動をかんたんに行えるようになれば生活の質を向上させられます。
経済効果
ライドシェアサービスの導入により、地域の雇用創出や経済活動の活性化が期待できます。そのため、ドライバーとして働く機会や関連するビジネスへの需要の増加が考えられます。
また、観光客にとって安価で便利なライドシェアが導入されることで、観光地へのアクセスが向上し、観光業の活性化が実現されます。観光客が気軽にライドシェアを利用できるようになると、観光地への訪問が増加し、地域経済にプラスの影響を与えます。
自治体ライドシェアの先行事例
石川県小松市
参考:小松市「小松市ライドシェア『i-Chan』の運行」
参考:日経BP総合研究所「加賀市と小松市でライドシェア、『自家用有償旅客運送』の規制緩和を活用」
石川県南部の、日本海に面する小松市では、日常的な移動に不便さを感じている住民や観光客、北陸新幹線で当市を訪れた観光客の移動が便利になるよう、タクシーが不足している夜間の時間帯に自家用車を活用した小松市ライドシェア(愛称:i-Chan)を運行しています。また、このライドシェアは、能登半島地震で被災した二次避難者の移動手段としても機能しています。
専用アプリ「いれトク!」か電話による予約で乗車可能で、料金は、能登半島地震の二次避難者は無料クーポン、市民及び来訪者はオンライン決済アプリPayPay、またはクレジット決済で受け付けています。価格は、同距離のタクシーの約8割とお得で、小松市内の交通がより活発になると期待されています。
京都府舞鶴市
参考:OMRON「meemo」
参考:舞鶴市「舞鶴市共生型MaaS『meemo(ミーモ)』事業の実施について」
京都府北部の中丹地域に位置し、舞鶴湾に面する舞鶴市は、地域の強みである住民同士の繋がりや助け合いを生かし、住民同士の送迎サービスとして、OMRON社の自治体ライドシェアシステム「meemo(ミーモ)」を導入しました。これにより、タクシー不足等の課題に直面している既存の公共交通機関の補完と、観光客の移動手段不足の解決に取り組み、地域経済の安定化と持続可能な地域社会の創生に貢献しています。
予約は、電話での配車予約のほか、マッチングを自動化するアプリを利用します。乗車は、1回の送迎につき700円(乗車券1枚)、市内遠方は1,400円(乗車券2枚)のチケット制です。市内の高野女布簡易郵便局にて1枚700円の乗車券と5枚綴り3,000円のセット回数券を販売しています。
神奈川県三浦市
参考:神奈川県「『かなライド@みうら』毎日運行中!」
参考:三浦市「かなライド@みうら」
神奈川県南東部、三浦半島最南端に位置する三浦市では、タクシーが不足する地域や時間帯において、タクシー会社の独立採算によるライドシェアの導入を目指す実証実験「かなライド@みうら」を行っています。神奈川県と協力し、バス運行本数やタクシー稼働台数が減少する夜間(19時~25時)に、市民が安心して移動できる手段を確保する目的です。
予約は、タクシーアプリ「GO」からかんたんに行うことができるため、ライドシェア用のアプリにわざわざ登録する必要はありません。ドライバーはタクシー運転手とは異なり、普通自動車第二種運転免許を持っていませんが、自治体での研修やドライブレコーダーなどの備品が無料で提供されるなど、トラブルを未然に防ぐ施策がされています。
京都府京丹後市
参考:NPO法人 気張る!ふるさと丹後町
参考:内閣府ホームページ「ささえ合い交通について」
京丹後市は、京都府の北部地域に位置しており、市内の丹後町には近畿地方の最北端である経ヶ岬があります。当市は、高齢化が進行し、全域が過疎地域に指定されており、民間路線バスは幹線道路1本を1~3時間に1本ペースで走行していますが、2008年に町内の民間タクシー会社の営業所が廃止されるなど、交通空白化が進行していました。そこで、2016年からライドシェア界の先陣を走り続けているアメリカの企業Uber(ウーバー)のプラットフォームを用いた自治体型ライドシェアサービス「ささえ合い交通」の運行を開始しました。
ユーザーのスマートフォンでウーバーの配車アプリを開き、行き先を入力して、乗車場所を確定し、料金支払い方法を選択して配車依頼をします。マッチング後は、乗車場所に配車される時間とともにドライバーの顔写真などが表示され、利用後はドライバーの評価が可能です。NPO法人との提携で、電話での配車も可能で、デジタルデバイドの対策もとれています。
鳥取県八頭郡智頭町
参考:智頭町「AI乗合タクシー『のりりん』特設ページ」
智頭町は、鳥取県八頭郡に属する町で、県の南東部に位置しています。本町では、2007年にすぎっ子バスを導入し、住民の交通手段確保に取り組んでいましたが、少子高齢化による利用者の減少、維持費の増加により財政を圧迫している状況が続いていました。そのうえ、定時定路線型の運行は非効率で、町民のニーズに合わず、交通機関の確保は厳しい状況でした。そこで、地域住民参加型の共助交通AI乗合タクシー「のりりん」の運行を始めました。地域の住民が日常的に利用できる利便性の高い交通基盤であり、のりりんでは乗合での運行を行うとともに、運行管理システムにAIを用いています。
のりりんは、事前登録が必要で、予約はアプリか電話から行えます。町内に200カ所以上ある乗降ポイントを指定して、支払いはチケットを利用します。特定の条件に当てはまる人は、割引も使うことができ、従来の定時定路型交通よりも利便性が良く、町のニーズに合った交通手段です。
ライドシェアにおける課題
このように自治体でライドシェア事業を始めているところも多いですが、一方で、まだ課題が残されています。
ドライバー不足
ライドシェアが人気の時間帯や地域で運転手が不足することがあります。これにより、利用者が必要なときにライドシェアサービスを利用できない可能性があります。このようにならないためにも、需要予測とドライバーのスケジュール管理が求められ、需要が高まる時間帯に効率的にドライバーを配置し、不足を回避することが必要です。
安全性の確保
ドライバーの身元確認や運行管理が十分に行われないと、利用者の安全が脅かされる可能性があります。また、身元は確かでもドライバーの評価機能やアンケートなどを利用したフィードバックシステムを組み込むことで、ドライバーの品質管理を行い、安全性を確保することができます。
ユーザーフレンドリーな予約
高齢者やITに不慣れな住民にとって、ライドシェアの予約が難しい場合があります。特にスマートフォンやインターネットを使い慣れていない人々にとっては、予約システムの複雑さが利用の障壁です。
ユーザーフレンドリーな予約システムを提供することで、利用者がかんたんに予約を行えるようにします。また、電話やメールを使った予約も同時に管理できる予約システムを導入することで、デジタルデバイドを解消し、全員使いやすいシェアライドが実現します。
自治体のライドシェア予約にはRESERVA
自治体がシェアライドサービスを提供するにあたって、おすすめなのが予約システムの導入です。予約システムは、ライドシェアの予約管理にとどまらず、決済から顧客管理、さらに集客に至るまでの業務全体を自動化することが可能なシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、自治体の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、利用者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
現在、多くの予約システムがありますが、自治体が効率的にDXを促進するためには、実際に導入事例もあるRESERVAがおすすめです。RESERVAは、28万社、500以上の政府機関・地方自治体も導入したという実績がある国内No.1予約システムで、予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、自治体の業務プロセスが効率的に進められます。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる地方自治体にもおすすめです。
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まとめ
本記事では、自治体が進めるライドシェアのメリットと、実際の事業事例とそこから見えてきた課題を紹介しました。自治体のライドシェア推進は、交通渋滞の緩和や公共交通機関の利便性向上だけにとどまらず、観光事業の振興による地域経済の活性化にも寄与します。この取り組みにより観光地へのアクセスが向上し、観光客の増加が見込まれることで、地元ビジネスの成長と雇用創出の促進も可能です。一方で、まだ課題のある分野でもあるため、これからの成長が期待されます。ライドシェア事業の展開を検討している自治体はぜひ、本記事を参考にしてください。
RESERVA.lgでは、今後も自治体のDX化に関する国内事例を取り上げていきます。