地方自治体の役割は、国やほかの地方自治体との業務連携、観光業による地域活性化、医療サービスの提供など多岐にわたっており、近年では、新型コロナウイルスに関する助成金や給付金の申請手続きも行っています。このように住民のニーズが多様化し、自治体の業務は複雑化する一方で、業務の効率化が進まず、また人口減少などの影響もあり、自治体の人員確保は深刻な課題となっています。
2019年4月の労働基準法改正によって、民間企業の働き方改革は進んだものの、地方自治体での労働環境には改善の余地があると言われています。今回は働き方改革を推進しているいくつかの地方自治体を取り上げ、今後はどのように日本全体に浸透させていくべきなのかについて解説していきます。
各地方自治体の取り組み例
神戸市
神戸市は2017年より「働きやすい市役所が暮らしやすいまちをつくる」という構想のもと、働き方改革に取り組んできました。
神戸市における「スマートで優しい市民サービスを提供する」ために、区役所内では以下の3つの取り組みを推進しています。
1.在宅勤務:職場のPCを持ち帰り作業ができる
2.フレックスタイム制:柔軟な勤務形態の選択ができる
3.ICTの導入:業務の削減・効率化を図る
神戸市役所では職場で使用するPCを持ち帰り、自宅で業務を行うことができたり、柔軟に始業や終業時間を調整することができ、仕事と家庭の両立を図る職員の負担を軽減しています。さらにAIやチャットボットによる問い合わせサービスが取り入れられており、くらしに関する情報やごみの分別方法など身近な疑問にも24時間365日対応しています。
川崎市
川崎市は2018年4月から「川崎市働き方・仕事の進め方改革推進プログラム」を作成し、職員一人ひとりのワーク・ライフ・バランスの実現と多様な働き方を可能とする職場づくりを目指しています。
同プログラムでは「職員のワーク・ライフ・バランス」と「より良い市民サービスの提供」を両立させるのが大きな狙いであり、職員の働く環境の整備と多様な働き方の推進に取り組んでいます。また「制度・運用(ルール)」、「業務・組織運営(マネジメント)」、「ICT・設備(ツール)」、「意識・風土(マインド)」の4つの観点から細かいガイドラインを作成しています。
1.制度・運用(ルール):長時間勤務の是正、柔軟な勤務時間制度など
2.業務・組織運営(マネジメント):事務の効率化、業務プロセスの改善など
3.ICT・設備(ツール):オンライン会議の推進、ペーパーレス化など
4.意識・風土(マインド):人事評価、研修の見直し、メンタルヘルスなど
川崎市では2022年に予定されている新本庁舎の完成を、働き方改革の契機だと捉えており、新型コロナウイルスの影響により生じた業務量の増大を踏まえて、さらなる職場環境の改善に取り組んでいます。特徴的な制度は「水曜日の定時退庁の実施」「ノー残業デーの実施」「ICT活用研修の開催」「定期的なストレスチェック」などがあり、「なぜできないのかを考えるのではなく、どうしたらできるのかを考える」という前向きな姿勢で、実現できるものから順番に着手しています。
地方自治体をめぐる労働環境
働き方改革を積極的に推進している地方自治体が存在する一方で、柔軟な働き方の導入は一部の団体に限られており、日本全体としては途上段階にあります。
女性活躍の現状
男女共同参画局のレポートによると、地方公務員採用者を占める女性職員の割合は、2003年から2017年の間で約1.3倍となり、増加傾向にあります。女性の公務員志望者が増えた理由として、政府が2009年の育児・介護休業法改正や2016年の女性活躍推進法施行などを通して、女性のさらなる社会進出を後押ししてきたことが考えられます。
しかし、女性職員の登用は進んできたものの、出産や子育て中に出来る業務が限られ、思い描いていた就労継続が困難になるケースは多くあります。特に顕著に表れているのが、「管理職の女性比率」や「男性の育児休暇取得率」です。
総務省の調査によると、一般行政職では、課長相当職以上の管理職に占める女性職員の割合は1割程度にとどまっています。また、育児休暇の取得率をみると、女性職員は99.4%と高い割合にありますが、男性職員はわずか5.6%となっています。
今後少子高齢化が進み、労働力がますます減っていくことが見込まれる中で、子育てをしながら働く職員や育児休暇をとる職員が、時間・業務の制約により、「限られた仕事にしか就けない」、「将来管理職にはなれない」という問題を抱えたままでは、現在と同じ自治体の機能を維持していくことは難しいと考えられます。
勤務時間の現状
2018年には「働き方改革関連法」が成立し、大企業には2019年4月から、中小企業には2020年4月から、時間外勤務の上限規制(原則月45時間、年360時間まで)が義務付けられました。また、国家公務員においても2019年4月から、人事院規則で超過勤務命令の上限が定められ、地方公務員においても、必要な条例改正を行うよう通知されています。
総務省の調査によると、一般行政職員の各月平均の時間外勤務時間数において、都道府県・政令市では「10時間以上~15時間未満」の割合が約7割と最も高く、「15時間以上~20時間未満」の割合も約2割となっています。一方、市区町村(100人以下)では「5時間未満」の割合が約3割となっており、自治体ごとの格差が見られます。
また近年では新型コロナウイルスの対応に追われ、「過労死ライン」を超える職員の急増は深刻な課題となっています。神奈川県人事課によると、2020年度において月80時間超の時間外勤務をした県職員の数は、2019年度の236人から約2.5倍となる467人となりました。今後は業務プロセスの見直しや職員の健康を守る労働環境の整備への迅速な対応が課題となっています。
今、地方自治体がすべきこと
両立支援研修の実施
職員一人ひとりが働きやすい環境を目指すためには、職場の上司や同僚に対して、事前に制度の内容や必要性について理解を深める必要があります。実際に仕事と子育ての両立を検討する職員だけでなく、人事課や管理職に向けた研修も行い、職員に積極的にさまざまな制度を活用してもらえるよう呼びかけることが重要です。実際に両立経験をした先輩職員が「メンター」となり、若手職員の不安や悩みを相談できる機会を提供している自治体もあります。また昇進試験において、受験に必要な資格の再検討や試験内容の見直しを行う施策も有効だと考えられます。
テレワークの導入
柔軟な働き方を進めていく上で、テレワークの導入は必要不可欠となります。日本全体で働き方改革が促進され、「職場にいること=仕事をしている」という概念が変わりつつありますが、総務省の調査によると、市区町村(101人以上)では「正式に導入している」「試験的・実験的に導入している」をあわせた割合は 2.6%にとどまっています。
実際に導入した際に見られた効果として、最も多かったのは、移動時間の短縮、次が家庭生活との両立です。新型コロナウイルスの影響で子どもがオンライン授業となり、子どものそばで仕事がしたいという需要が伸びたことも背景にあります。
地方自治体は複雑な業務を多数抱えており、完全なるテレワークへの移行にハードルを感じる声も多くあります。そこでトライアルとして短期間導入を実施し、実際に市民サービスの質、業務連携、労務管理等にどのような影響が出たかを検証してみることが重要です。
総務省ホームページにおいても、地方公共団体におけるテレワーク導入事例が詳細に解説されています。
RESERVA予約システムの活用
労働時間の短縮には「ICTの活用」が欠かせません。その1つの解決手段として、RESERVA予約システムの導入が考えられます。
RESERVA(https://reserva.be/)は、国内最⼤級のSaaS型予約システムで17万の事業者・官公庁に導⼊されており、予約受付システムを駆使することで更なる業務改善が見込めます。例えば、オンラインツールのZoomとシームレス連携することで、オンライン相談会やオンラインセミナーの開催時もかんたんな操作だけで接続が可能になります。
地方自治体への導入事例(各項目概要ページにアクセスできます)
当社の予約システムは窓口の混雑回避にも貢献します。システム上で窓口の種類をリスト化し、よくある相談例と合わせて記載しておくことで、相談先は明確になり、当日の無駄な迷いの時間を解消することが可能です。職員の業務効率改善のためにも、密を回避しやすい環境を作るためにも、業務のオンライン化は欠かせません。
まとめ
今回は働き方改革を推進しているいくつかの地方自治体を取り上げ、より働きやすい環境づくりを進めていくにはどのようにすれば良いのかについて解説しました。コロナ対応に追われ逼迫する自治体の業務改善が懸念される今こそ、働き方改革を進めていくべきではないでしょうか。「働くことの当たり前を変える」、地方自治体の取り組みが、未来の地方・都市・国全体の働き方を変えていくことでしょう。