近年、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)、ICT、IoTといった言葉を耳にする機会が増えました。新型コロナウイルスの影響で、テレワークの推進や業務のリモート化などが急務となったことにより、DX化に向かう流れになったことが主な要因と考えられます。
加えて、SDGsの達成に向けてもDX化は重要な取り組みです。DX化による業務の効率化や省人化は、SDGsの達成にはほとんど必須であると考えられていますし、同時に日本が直面する人口減少への対応策になっています。そのため、コロナ後の社会に向けて、DX化を活発に進めている自治体や企業が増えています。
一方で、DX化には課題も多く、なかなか取り組みが進まない自治体も少なくないと思います。そこで本記事では、DX化へ積極的に取り組む先進的な都道府県を取り上げ、独自に設けた評価項目で採点し、その取り組みのポイントをかんたんにまとめてご紹介します。
都道府県DX化の取り組み評価
目的と方法
これからDX化に向けて取り組む自治体や企業に向けた情報発信を目的として、DX化に積極的に取り組む都道府県における「DX化の現状」と「DX化に向けた課題」を整理し、実際の事例や画期的な取り組みをピックアップして解説していきます。
「DX化の現状」について、当社では、取り組みの進行度やDXの充実ぶりを可視化するために、当社予約システムに関する全国の自治体からのご相談、お問い合わせ、受注実績やノウハウを基にして、都道府県におけるDXの取り組みについて31の評価項目を独自に作成しました。
都道府県DX化の取り組み評価では、この評価項目を元に評価、採点を行っていきます。
評価項目
都道府県DX化における課題
- DX人材の不足
現状、日本においてDX化に携わる人材が不足しており、企業・自治体を問わずDX化を推し進める上での障壁となります。既にスキルを持っている人材を獲得、あるいは人材の育成に取り組むか、または人材を確保している企業と組んで外注するか、いずれにせよDX化に向けて確実に解決するべき問題です。 - DX化、ICT活用の専門部署がない
日本の組織の多くはIT戦略を含めたDX化、ICT活用を行う部署が用意されていません。日本の行政機関としてデジタル庁が新設された事は記憶に新しく、DX化を推し進める上の方針の設定や施策を推進する上で専門部署の設立は必要だと考えられます。 - 地域ごとの財政規模、財源の違い
財政規模や財源の違いによって、DX化に向けた投資に踏み切れない自治体は多いと思います。DX化を進めることで財政の立て直しやサービス向上など付加価値が得られ、自治体としての価値を高められるのですが、実例がまだ少なく手を出しにくいのが実情のようです。 - 住民本位の取り組みになっているか
DX化は単なる業務の効率化のこと、あるいはICTと混同されがちなキーワードです。DX化の最大の目的はサービスの質や生産性の向上であり、住民に寄り添いながら、本当に住民が求めていることは何か、その上で取り組むべきことは何かを精査していく必要があります。 - 多言語への対応が可能になっているか
日本に在留している外国人は令和5年6月時点で約322万人で、日本の人口の約2.5%に相当します。SDGsなどの観点から見ても、各自治体において多文化共生社会の実現は重要な目標であり、その一端を担う在留外国人への取り組みが必要であることは間違いありません。
DX・ICTの違い
ICTは「Information and Communication Technology」の略で、「情報通信技術」のことです。メールやSNS、チャットなど、情報をやり取りするためのサービスを指すほか、近年のAI、IoT化の進展により世界的にその技術領域は拡大しつつあります。
DXは「Digital Transformation」の略称であり、直訳すると「デジタル変革」です。DX化はICTやIoT(Internet of Things)をツールとして利用して日常生活やビジネスの質を高めることが目標となっています。
ICTの活用はDX化に含まれますが、DX化はICTの活用を含めた様々なアプローチで実現されるものというのがポイントです。
東京都の評価と解説
当社独自の調査項目に照らし、東京都の得点は31点中31点で満点という高水準な結果となりました。施策のアピールや業務の効率化についての取り組みが進んでおり、DX化の推進、とくにデジタルガバメントの実現に向けた基盤づくりに積極的に動いています。そんな満点を獲得した東京都の取り組みの中から特に注目されるポイントについて解説します。
評価結果
シン・トセイ
東京都ではDX化推進とそれに併せた都政の構造改革への取り組みの戦略として「シン・トセイ都政の構造改革QOSアップグレード戦略」(以下、シン・トセイ戦略)を2021年の3月に公表しました。
2021年の5月にはDX化による都政の構造改革を進める基盤として、「#シン・トセイ(都政の構造改革ポータルサイト)」を開設しました。このポータルサイトでは、都と都民との双方向でのコミュニケーションを強化する目的で開設され、ペーパーレス化などの進捗状況や、公式noteやTwitterで改革推進のようすが確認できるほか、取り組みに対する改善案や意見の投書が行えます。
また、都政の構造改革の突破口となる「コア・プロジェクト」として、以下の7つを挙げています。
- 未来型オフィス実現プロジェクト
- 5つのレス徹底推進プロジェクト
- ワンストップ・オンライン手続プロジェクト
- オープンデータ徹底活用プロジェクト
- スタートアップ・シビックテックとの協働推進プロジェクト
- 内部管理事務抜本見直しプロジェクト
- 組織・人材マネジメント変革プロジェクト
さらに、「コア・プロジェクト」に併せた「各局リーディング・プロジェクト」として推進することで、都庁を「デジタルガバメント」に変える「バーチャル都庁構想」の実現を目指しています。
公式サイト:#シン・トセイ 都政の構造改革ポータルサイト
未来型オフィス実現プロジェクト
「未来型オフィス実現プロジェクト」は「コア・プロジェクト」の1つで、生産性の向上と新しい働き方の実現に向けたオフィス整備に関するプロジェクトです。
例えば、都庁本庁では柔軟で新しい働き方を支えるクラウド(SaaS)などを利用できるデジタル環境の整備を推進しています。それに併せて本庁舎の一部に未来型オフィスのプロトタイプを整備し、フリーアドレスを導入して組織運営の変革につながるオフィスの改革を推進しています。
TOKYOスマート・スクール・プロジェクト
「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」は「各局リーディング・プロジェクト」のうち教育庁のプロジェクトです。ICT環境整備と利活用の充実によって学び方・教え方・働き方の改革に取り組みます。
学び方については、個別に最適化された学びや子供同士の主体的・対話的な学びなどの促進を目指します。教え方については、学習ログを活用した指導を行ったり、ビックデータの活用・分析により授業改善を図ったりする指導ができるようになり、働き方については、校務の効率化により、子供たちと向き合う時間が確保され、よりきめ細かい指導が期待されます。
デジタルサービス局の設置
東京都はデジタルの力を活用した行政を総合的に推進し、都政のQOS(Quality of Service)を向上させるため、デジタルサービス局を設置しています。デジタルサービス局は「各局区市町村のDX推進を技術面からサポート」、「デジタルに関する全庁統括」、「デジタル人材の結集と都庁職員の育成」の3つの機能を中心に「デジタルガバメント・都庁」の実現にむけて取り組みを進めています。
公式ホームページ:東京都デジタルサービス局
東京都DX推進実証実験プロジェクト
「東京都DX推進実証実験プロジェクト」は中小企業DX領域、社会変革DX領域の2つの領域からなる実証実験モデル事業で、東京で展開する原則創業10年以内のスタートアップ企業を対象としています。
中小企業DXでは中小企業のDX化モデル事業の実証実験、社会変革DXではコロナをきっかけに大きな飛躍が期待されるテーマについて社会変革につながるようなDX実証実験についてそれぞれ支援を行います。物的サポートや実験を実施する企業・支援機構とのマッチングなどの支援を行います。
公式ホームページ:東京都DX推進実証実験プロジェクト
評価項目
今回は、都道府県の公式サイトのページや都道府県の取材記事などを基に、DX化に関する都道府県の取り組みの有無について独自に調査しました。ここでは、採点に利用した31項目を3つの観点について分類した上で、DXにおけるポイントやユーザーフレンドリーな自治体作りについて解説します。
方針・施策について(観点①)
DX化を進める上での方針や施策、DX化やICT活用に関する部署の有無、地方自治体・民間企業との連携、プロモーションにおけるメディアの活用など、DX化に向けた組織・地域作り、方向性などが示されているかを評価しました。
- 民間との連携によるプロジェクト企画が行われている
- 都道府県独自でのデジタル化指針を公表している
- SDGsに対するデジタル施策が公表されている
- 都道府県主導で地域のDX人材の育成を宣言し行っている
- DX推進課やICT活用室など明確にDX化に関する部署がある
- Webを通じたプロモーションがメディアに取り上げられている
業務の効率化について(観点②)
ICTを活用した業務の効率化の中でも、特に行政側における取り組みについて評価しました。ペーパーレス化やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の利用や予約システムの導入など業務の単純化・省人化に関するものが主に含まれます。
- 施設利用などに予約システムの導入を行っている
- オンラインセミナーなどWEBツールを利用する仕組みがある
- WEBツールを活用した業務・活動の実績がある
- テレワークの導入、印鑑廃止などの取り組みがある
- ペーパーレス化(証明書関連のデジタル化)が進められている
- ワクチン接種情報について特設サイトを設けている
- ワクチン接種の運用において、オンライン申請等デジタル活用が進んでいる
- 定型業務や単純業務にRPAを利用している
- 役所内にフリーアドレスを導入している
住民向け・ユーザーフレンドリーについて(観点③)
DX化として重要な観点となる住民向けの取り組みで、行政の手続きや情報発信においてユーザーフレンドリーになっているか、あるいはICT教育、デジタルデバイドの解消など住民がよりよく暮らせる取り組みがなされているかを評価しました。
- 公式ホームページの更新頻度は3日に1度以上である
- ホームページにアクセスする上でサイトの表示速度が十分にある
- 自治体の情報発信を目的としてYouTubeチャンネルを開設している
- Twitter/Instagram/Facebookの公式アカウントがある
- SNSの更新頻度は週1以上ある
- 行政に関する住民の質問にチャットボットなどを導入して対応している
- 役所窓口や自治体の公共施設でキャッシュレス決済を導入している
- 納税をキャッシュレス化している
- 緊急時などのメール通知機能がある
- 自治体が提供するアプリケーションがある
- LINEによる相談窓口、情報発信体制がある
- 教育ICT(教育用タブレットの配布など)に力をいれている
- 高齢者とのデジタルデバイド解消に取り組んでいる
- 都道府県内の7割以上の市や区で電子申請が利用できる
- 1つのページで都道府県・各自治体から電子申請先を確認できる
- 多言語(3言語以上)に対応している
これらの評価項目は、他の都道府県の調査を続けていきながら、随時追加、改善していく予定です。
東京都|評価のまとめ
東京都の取り組みの特徴として、今回紹介した「#シン・トセイ戦略」を含めてほとんどが2021年に始まったばかりの取り組みです。2022年を短期の目標とし、2025年の到達目標である「デジタルガバメント・都庁」の基盤構築に向けて急進的な動きを見せています。
今回の調査で満点を獲得したところからも東京都はDX化において全国トップと位置付けることができます。しかし世界には日本にはまだない、自治体単位で行うデジタル技術を活用した様々な取り組みがあります。
- エストニア
エストニアはロシアの西に位置するバルト三国のうち最も北側の国で、世界で最もDX化が進んでいる国としても知られています。
その1つとして、エストニア電子政府を実現し、デジタルガバメント化を達成したことが挙げられます。エストニアではあらゆる手続きに紙が必要なく、行政手続きの99%をオンラインで行うことができます。電子国家エストニアのデジタルサービスを支えるのが「X-Road」というプラットフォームです。エストニアでは国民一人ひとりに、11桁の国民番号、電子署名と電子認証機能を搭載した「エストニアeIDカード」が交付されます。このカードとX-Road上のシステムやデータベースを連携し一元化することで行政サービスの電子化を実現しました。
また、エストニアeIDカードは2002年に実装されたカード型の他に、2007年にはSIM型のモバイルID、2017年にはアプリ型のスマートIDがリリースされ、サービスの改善・発展が進んでいます。エストニアのDX化は国民目線から常にユーザビリティの向上に取り組んでいることがわかります。
- ニューヨーク(アメリカ)
NYC Open Dataはニューヨーク市が持つ二次利用可能な膨大なデータを提供し、「自治体へのアクセスの利便性向上」「市政の透明性向上」「自治体の説明責任の改善」という3つの目的で2011年に始まったものです。2012年には市がオープンデータ条例を制定し、オープンデータの利用促進のためにより詳しい利用マニュアルの作成などに取り組みました。ニューヨーク市ではほかにも、老朽化した公衆電話の代わりにさまざまな機能を持つLinkNYCを設置しています。無料のWi-Fiや、アメリカ国内への無料通話、緊急電話、スマートフォンの充電などが行えます。広告用の大型サイネージを持っており、広告収入で運営されるためコストがかからないことが特徴です。
- コペンハーゲン(デンマーク)
デンマークの首都であるコペンハーゲン市ではCopenhagen Connectingというプロジェクトが主軸となってデータの収集、分析から市民への快適な生活を提案しています。データの活用、インフラの整備、さまざまな地域の機関のコラボレーションにより、「健康」「モビリティ」「エネルギーと気候」「市民」「教育」といった分野に注力しながら、都市全体の効率性の向上を図ることを目的としています。CITS(Copenhagen Intelligent Traffic Solutions)はプロジェクトの1つで、交通渋滞の改善とCO2排出量の削減、市民の安全性向上を目指し、最新鋭の高度道路交通システムを導入してプライバシーを守りながら自動車や自転車の位置情報を収集しています。さらに、収集したデータから長期的な傾向を割り出し、気象情報などの他のパラメータと渋滞状況の相関関係を分析することで移動時間の短縮を目指しています。
東京都では、都庁の構造改革はもちろん、企業への補助や教育などさまざまな角度からDX化の取り組みが見られました。国内の先進事例として都庁での経験・ノウハウ・データなどを他の自治体と共有することで、日本全体のDX化を牽引し、地方創生のサポートや社会課題の解決を推進することでしょう。今後も東京都の取り組みに注目です。
RESERVA Digitalでは世界のDX化に関する取り組みをご紹介しています。
マイナンバーで行政をDX化する取り組み|地方自治体・海外での事例を紹介
海外の医療先進国に学ぶ、医療の「DX化」と日本の将来
地方自治体におけるRESERVA予約システムの活用
東京都でも行われているDX化による利便性の向上や、ICT活用による業務の効率化、省人化。こういった課題にかんたんに取り組めるのが「SaaS型予約システムの導入」です。当社が提供する予約受付システムRESERVA(https://reserva.be/)は、26万の事業者・官公庁に導⼊されている国内最⼤級のSaaS型予約システムであり、人口20万人を超える規模の自治体のほか、人口5万人以下の小規模な市町村でも導入実績があり、最も選ばれている予約システムです。業務の効率化を進めて、より先進的な地方自治体の仕組みを作りましょう。
自治体で活用されている予約サイト紹介