中四国地方にある政令指定都市で、東瀬戸経済圏最大の都市として栄える「岡山市」。そんな岡山市では、情報化の取り組みやICT(情報通信技術)の利活用によるまちづくりを推進しています。
とりわけ単なるデジタル活用にとどまらず、業務や組織までも大胆に変革する「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」を、情報政策における最上位の戦略に掲げ、行政ではその実現に向けた動きが活発化しています。本記事では、岡山市のDX戦略の概要から具体的な取り組みについて解説します。
岡山市の概要
岡山市は岡山県の南東部に位置する市で、岡山県の県庁所在地です。政令指定都市に指定されており、4つの行政区がおかれています。
日照時間が長く、年間降水量も少ないという特徴があり、気候の恵みを受けて高級フルーツの生産が盛んです。
DXの重要性と岡山市の取り組みの背景
地方自治体のDXの重要性
DXとは「デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略で、デジタル技術を活用してビジネススタイルや生活、社会をよりよいものに変革していくことを指します。現代ではスマートフォンやインターネットの普及により、人々とデジタルは密接に関わり合うものになっています。デジタルの力でさらに快適な生活を送れるよう、DXの重要性が提唱されています。
その中で、地方自治体のDXはより重要度が高まっています。
政府は、目指すべきデジタル社会のビジョンとして 「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」を提示しています。
それを受けて総務省は「このビジョンの実現のためには、住民に身近な行政を担う自治体、とりわけ市区町村の役割は極めて重要」と述べており、地方自治体のDXを進めることは地域社会の発展のために必要なことだと言えます。
地方自治体のDXは市民サービスの向上、業務効率化、市民参画の促進、地域の活性化、公共サービスの質の向上など、様々な面で重要な役割を果たしています。地方自治体が積極的にDXを推進することで、地域の発展と市民の生活の質の向上が実現されることが期待されています。
岡山市のDX取り組みの背景
岡山市は、これまでもデジタル化を段階的に取り入れて、行政事務の効率化、施設予約システムの導入といった市民サービスの向上、地域社会の情報化に努めてきました。
また昨今、「AIやIoTをはじめとするデジタル技術の急速な進展」や「新型コロナウイルス感染症の感染拡大で浮き彫りになった行政のデジタル化の遅れ」、「テレワークやオンライン会議、キャッシュレス決済の普及」といった市民の行動様式の変化が顕著に現れています。
さらに、岡山市では少子高齢化により社会構造が大きく変化しています。岡山市の総人口は増加しているものの、65歳以上の高齢者人口割合が高まり、生産人口割合は縮小しているためです。 岡山市によると、2020年(令和2年)時点での高齢者人口比率は26.2%、生産年齢人口比率は61.0%ですが、2045年(令和27年)にはそれぞれ32.7%に増加、55.7%に縮小する見込みとなっています。
このような中、“デジタル化によって地域経済の発展と市⺠⼀⼈ひとりの幸せを如何に実現するかが課題”となっており、変化する時代に即して、市民がより良い生活を送れるよう岡山市はDXを推進していく必要があります。
岡山市のDX施策の概要
市をあげたDX施策推進のため、岡山市は「岡山市DX推進計画」を策定しました。2022年(令和4年)度から2025年(令和7年)度までの4年間を計画期間としています。
全体テーマとして“DXによる「住みやすく躍動感のある」まちづくり”を掲げ、「利用者目線によるDXの推進」「安全で信頼性の高いDXの推進」を推進上の視点としています。
施策については、次にあげる3つの施策分野を軸として推進しています。
地域社会のDX
経済や子育て、健康福祉などの分野でデジタル技術を幅広く活用し、市民の生活を支えることを目的としています。
市⺠サービスの向上
行政手続きのオンライン化や、企画立案、相談・支援等の業務にデジタル技術を活用し、市⺠サービスを向上することを目的としています。
行政事務の効率化
AI・RPAの導入やペーパーレス化を推進するとともに、必要となるデジタル⼈材の確保・育成を行い、質の高い行政サービスを提供し続ける体制を構築することを目的としています。
岡山市のDX施策の具体的な取り組み、ポイント
岡山市のDX施策について、先ほど触れた3つの施策分野ごとに紹介します。
地域社会のDX
市民参画のプラットフォームと意見の反映
目的 | 最新テクノロジーを使った地域課題の解決とスタートアップ企業の事業成長の促進 |
取り組み内容 | ・社会や行政の課題の解決を目的とした新たな事業として「GovTech Challenge OKAYAMA」 を発足 ・課題を公表し、岡山市と協力して解決してくれるスタートアップ企業を公募 公募サイト: 岡山市 | Urban Innovation JAPAN |
効果 | 株式会社ほいらくが岡山市と協力し、助成金申請システムを開発、実証実験 |
参考:岡山市、スタートアップと課題解決 町内会DXなど5事業 – 日本経済新聞
スマートシティ構築
目的 | 中心市街地の活性化 |
取り組み内容 | AIカメラで商店街の通行量調査 |
効果 | ・リアルタイムで分析データを閲覧可能に、今後の施策に反映 ・これまで人員を割いてきたことが機械で行えるようになったため、人件費削減が見込める |
参考:AIカメラで商店街の通行量調査 岡山市、本格運用へ社会実証:山陽新聞デジタル|さんデジ
オープンデータの公開、活用
目的 | 行政改革促進、市⺠や⺠間企業のデータ活用を促進 |
取り組み内容 | 「岡山市 data eye」として岡山市保有データのオープンデータ化 |
市⺠サービスの向上
キャッシュレス決済の推進
目的 | ・キャッシュレス決済の利用促進 ・コロナ禍で岡山市内が受けた経済ダメージからの早期回復 |
取り組み内容 | PayPay、d払いを使ったスマホ決済ポイント還元キャンペーンを複数回実施 |
効果 | 約25億円の経済波及効果(2022年11月実施時) |
参考: (終了しました)【第4弾】がんばろう岡山市!スマホ決済最大20%が戻ってくるキャンペーンのご案内 | 岡山市
市民向けアプリの開発
目的 | 重要な行政情報が市民に的確に、かんたんに伝わる仕組みの構築 |
取り組み内容 | 岡山市公式アプリの作成 ・岡山市ゴミ分別アプリ ゴミの収集日や出し方、回収場所Mapなどを搭載 ・おかやまし子育てアプリ 民間の母子手帳アプリ「母子モ」と連携 妊娠の経過や、予防接種のスケジュールなど通知 |
行政事務の効率化
デジタル人材育成
目的 | ・デジタル技術を活用できる職員の育成、または採用 ・外部専門⼈材、⺠間企業との連携 |
取り組み内容 | ・岡山市と市内専門学校との間でIT系企業の誘致や人材育成の連携協定 ・岡山市とコニカミノルタ株式会社との間で連携協定 |
参考: IT・デジタルコンテンツ産業誘致・人材育成連携事業 | 岡山市
コニカミノルタ株式会社との行政事務の効率化に関する連携協定について | 岡山市
スマートシティにより近づく、予約管理システム「RESERVA」
ICT技術を活用したDX化を実現するためには、地域住民のITリテラシーやデジタル活用の意識を高めることも重要です。企業や店舗、行政機関などは、利用者と接点を持つ際にデジタルツールの利用機会を増やし、デジタル活用を浸透させることが大切です。
デジタルツールの普及に向けて役立つのがSaaS型サービスです。SaaS型は高機能でありながら、リーズナブルに利用できることが特徴です。例えば、オンライン予約システム「RESERVA(レゼルバ)」は、あらゆる業界・業種でも導入されているSaaS型サービスです。
RESERVAを導入することで、集客・予約・決済・来店といった一連のビジネスフローを自動化し、従来の予約管理方法から脱却するなど店舗ビジネスのDXを実現します。
近年では、自治体や官公庁、大学などの導入実績も増えており、官民連携を果たした実例も多いのが特徴です。導入実績の詳細は、予約システムRESERVA(レゼルバ)ホームページをご覧ください。
まとめ
今回は、岡山県岡山市で実施されている「岡山市DX推進計画」を解説しました。
ベンチャー企業と共にシステムを開発して地域課題の解決に取り組む、キャッシュレス決済のキャンペーンで大きな経済効果を生み出すなど、岡山市はDXによる一定の成果を出しています。
また、専門学校や企業と提携し、今後はデジタル人材の育成にも力を入れていく模様です。DXを推進することで、全体テーマに掲げる”「住みやすく躍動感のある」まちづくり”実現に向けて、岡山市はさらに成果を出していくでしょう。
人口減少や社会の変革に伴う課題は、多くの自治体が直面するものです。
同様にDX戦略を進めようとしているものの、何をしたらいいのか迷っている場合もあるかと思います。そうしたときに、岡山市の取り組みは参考になるのではないでしょうか。
今後も、予約DX研究所では地方自治体のDXに関する国内事例を取り上げていきます。他の地方自治体のレポートについては、こちらよりご覧ください。